僕らは、あの戦争のことをよく知りません。
でも、本当にもっと知らないのは、戦争の後のことなのかもしれません。
「笑わない花」は、あの戦争から二年後の福島市が舞台です。当時の福島市は、東京などに比べると戦火が少なく、現在のまちなか広場のあたりには、連日闇市が広がっていたそうです。満州からの引揚者も多く、円盤餃子もこの頃の闇市の中で生まれたと言われています。 戦後70年ということもあり、テレビ、ラジオ、新聞、ネット上でも、戦時中の話題が取り上げられています。あの戦争を忘れてはならない。その想いは私も一緒ではありますが、僕らの劇団は少し違う角度からアプローチしてみたいと考えています。
福島市の史跡や歴史上の出来事、人物を題材にした創作劇をお届けしている私たちですが、今回は「庭坂事件」を題材に創っていきます。「庭坂事件」は、庭坂駅から赤岩駅間で起きた列車の脱線事故で、3名の方が亡くなっています。国鉄三大ミステリー事件と言われる、同じく福島市で起きた「松川事件」と手口が酷似しており、関連も疑われる事件ですが、他の国鉄の事件同様、現在でもその真相は解っていません。
このように事件だけを書き記しますと、ずいぶんと社会派の劇団になったものだと、思われるかもしれませんが、今回のお芝居では、あえて、その真相に挑むのではなく、その場に居合わせた普通の人々を描くことに挑戦してみようと思います。
普通の人々とは。
あの事故に巻き込まれ、調べれば調べるほどに、底が見えなくなる、あの事件の真相やあの時代の裏側を知ることなく、けれども、必死に生き抜き、現在にバトンを繋いでくれた人々のことです。
あの時代の裏側、なんて書き方をしましたが、現在多様に言われている説がどこまで真実かも私の足りない頭ではまだまだ判別することは出来ません。
ただ、戦争があったことは紛れもない事実で、GHQ統治下の時代があったことも事実で、闇米に頼らなければ餓死する時代があったことも確かなようです。その時代を生き抜いてきた人々がいるから現在があること。私がこの街に立っていること。信夫の山を見、阿武隈の流れを聴く。その紛れも無い事実のルーツを、探ってみようと思っています。
そして。僕らがこの街で今、生きていることをほんの少しだけ、この物語のエッセンスとして加えられたら素敵だなと思っています。
勿論、僕らのお芝居です。決して堅苦しい芝居をするつもりはありません。見た人が元気になってくれる、心が温かくなる作品をお届けさせて頂きます。どうぞよろしくお願いします。
劇団120○EN
代表 清野 和也