庭坂事件に寄せて

庭坂事件に寄せて

 本日4月27日は「笑わない花-白米夜-」のルーツとなった「庭坂事件」が発生して78年目となります。福島市内は発生時のように雨模様の天気となりました。改めてご遺族、ご関係者のみなさまに謹んで哀悼の誠をささげます。

 11年前、戦後70年の節目として上演した作品が「笑わない花」です。当時、公演に寄せて『僕らは、あの戦争のことをよく知りません。でも、本当にもっと知らないのは、戦争の後のことなのかもしれません。』と書きました。
 今回、この作品をお客様から劇団120○EN福島市題材50作品総選挙で選んでいただき、改訂再演が決まりました。改めて初演の脚本を読み返してみると、11年前と今では「戦争」への距離感が全く別物だと感じました。現在も続くロシアによるウクライナ侵攻に加え、緊迫する中東情勢。戦争が一気に身近になったとともに「非日常」と思っていた戦争の報道に毎日触れていく中で、それが「日常」となっていく、麻痺していく感覚も覚えています。

 太平洋戦争時、この福島に生きた人々も「戦争」がいつの間にか「日常」となり生き抜いたのでしょう。戦争がある「日常」が、ある日終わる。非日常だったことに気がついていく。しかし、その後に平穏な営みがあったのでしょうか。改めて「本当に知らない戦争の後」に生きた人々のことに思いを馳せ、作品づくりを進めています。

 今回の「笑わない花-白米夜-」は、戦後最大の冤罪事件にして国鉄三大ミステリー事件に数えられる松川事件の前年、同じく福島で起きた列車転覆事故「庭坂事件」を改めて題材にしています。事故で3名の方が亡くなり、事故現場付近には慰霊碑が建っています。「松川事件」が広く知られる一方、前年の「庭坂事件」は、未解決のまま忘れ去られようとしています。私たちにはこの街で起きたことを伝えていく意義があると考えています。

 この事件の背景を調べてみると、私たちの世代が肌で感じたことのない戦後の闇が隠れているように思います。反共産主義の砦として矛盾も抱えながら民主化に進んでいくGHQ統治下の日本、生きるために体を売るしかなかった女性たち、闇米を食べ生き永らえた時代、労働運動とその弾圧。初演では受け止めきれなかった戦後の「日常」を深く描こうともがいています。

 本作品も事件そのものではなく、その事件に巻き込まれた普通の人々を描いています。4人の女性たちの大切な日常を非日常が侵食し、その非日常もまた日常に覆われていく。戦争や震災、パンデミック、最近では大規模な森林火災といった災害。いつからか「非日常」を「日常」として飲み込み、生きてきたことを経験した今だからこそ届けたい作品となっています。78年前の今日、福島、庭坂で生きた人々も同じだったのかもしれません。

 公演は1日4ステージ、3つの座組で行います。通常公演に加え、初演時の出演者が再び集うリバイバル公演、そして稽古期間中にアンダースタディとして研鑽を積んだ新人俳優による新米公演を実施します。同じ戯曲に、経験も年齢も異なる俳優たちが同じ日に挑みます。人によって考え方が違うように作品へのアプローチが大きく異なり、観た後の感想も違うものになるかもしれません。15年続いた劇団だからこそ成立するもので、15周年の意味をそのまま体現する公演となるよう劇団員一同誠心誠意、本番まで作品を磨き続けます。

2026年4月27日
劇団120◯EN代表/作・演出 清野 和也

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