はじめましての方、いつもお世話様の方、お久しぶりの方、どうも鈴木です。
劇団120〇ENの西地区での公演も早いもので今年で4年目となりました。廣瀬座で私たちのことを知った方も多いことかと思います。この場をお借りして改めて私たちの劇団のスタンス、今回の公演についてお話したいと思います。
我々劇団120〇ENは「福島に住む人々のルーツを辿る演劇集団」(当劇団HPより)です。「福島に住む人々のルーツ」とは何でしょう?そしてそれを辿るとはどういうことなのでしょう?これまでの廣瀬座での公演を一つ一つ「辿る」ところから見てみます。
1作目「思わざらまし六つの花」は飢饉と貧困に苦しむ農民のために立ち上がった義民「佐藤太郎衛門」が、江戸にある目安箱に嘆願書を入れる決死行から、それが罪に問われ磔刑の上最期を迎えるまでを上演しました。
2作目の「荒川ジュリエット」は西地区の生活の要である一方、氾濫により作物や家、時には人の命をも奪っていく「荒川」をめぐる2村の対立と和解、そして河川と人との共存を扱いました。
3作目の「絹が鳴る」では幕末から明治初期の動乱期「戊辰戦争」の中で、自分の居場所を求め必死に生きようとする名もなき人々の生き様を描き、その中でも養蚕を生業とした一人の女性に焦点を当てています。
この3作はどれも西地区に本当に生きていた人や実際にある場所・建造物、そして起きた出来事をもととしています。つまり、どの作品も西地区に生まれて今を生きている人と、時間を隔ててつつも場所で繋がっている物語なのです。その点で「ルーツを辿って」いるのかもしれません。
では、今回の作品はどうでしょう。今作「殿がいない」の舞台は陸奥下村藩、現福島市佐倉下のあたりです。今では福島キャノンをはじめとする福島西工業団地があり、相馬市と会津方面をつなぐ国道115号線により南北を分断され、福島の交通・工業の一端を担う地区です。また、吉井田・鳥川と、荒井・佐原といった西地区に連なる田園地帯でもあり、この季節になると黄金色に輝く田んぼも目をひく地域となっています。
しかし、作品当時の江戸時代後期以前は藩の中心に亀ヶ城(名倉城)という館や陣屋があり、また、旧米沢街道の宿場町として機能していたようです。もしかしたら、今よりも交通の要所として東北の人々が行き交う賑やかな町だったのかもしれません。
また、今では大きなビルや工業施設があり見えにくくなっているところもありますが、西に目を向けると吾妻連峰がそびえていることにも気づきます。ここには今でも春の訪れを示す、「種まきうさぎ」が顔を出します。昔の人にとってこの山々は信仰の対象だったり、恐怖や豊穣の象徴として見えていたのでしょう。
今実際に目にする風景とは違う光景がこの地区のルーツなのかもしれない。一方で人々の営みは今も昔も変わらずにあり続け、連綿と受け継がれているかもしれない……。ここまで考えを巡らせる場面がある作品かどうかは、ぜひ劇場に足をお運びいただくこととして……。
少なくとも我々がいま、どんな縁や由来のある場所にいて、どこへ向かっていくのか考え、「辿る」一端として、今回の公演、ひいては当劇団の活動を見ていただけるとより一層楽しめるかと思います。
どうぞ、廣瀬座にお越しになるまでの道中、今ある風景を目に焼き付け、廣瀬座からお帰りの際は作品中の人々が生きてきた時空をそこに重ねながら、遠く離れたルーツに思いを馳せる旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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